株式会社の従業員への貸付金の時効期間

時効判例解説5 東京地裁平成9年12月1日

※1会社の貸付債権の時効は原則5年との推定を受ける。但し、商行為ではないと立証できれば10年になる。

事例
昭和60年3月から11月にかけて株式会社Xは親会社Yの従業員Aにお金を貸した。
昭和61年11月 株式会社Xは、親会社であるYに債権を譲渡した。
同時に、Aは、自分が株式会社Yを退職したら、残額をすぐに株式会社Yに支払うと約束した。

昭和63年3月 株式会社Yは追加でAにお金を貸した。

昭和63年8月 Aは株式会社Yを退職した。

平成8年 株式会社YはAを提訴した。

被告である元従業員Aは、株式会社からの貸付は、商法503条2項※により商行為性が推定されるので時効期間は5年になるので、すでに時効が完成していると主張した。

株式会社Yは、借金で困っている従業員に貸しただけで、商行為ではない。なので、時効期間は10年になると主張した。

※第五百三条 商人がその営業のためにする行為は、商行為とする。
2 商人の行為は、その営業のためにするものと推定する。
(商行為の場合は時効5年。そうでなければ時効は10年)

裁判所の判断
株式会社Y勝訴(時効を認めなかった)
会社の行為の大半は、商取引に関するものであるが、例外的な場合にはそうではない。
商法503条2項で、原則的に商行為性があると推定されるが、例外的な場合は、否定される。
会社が貸し付けたのは、個人相手であって、このような貸付は商行為性はない。
よって、時効期間は10年となる。

時効判例解説第4回の事例と、適用された法律は同じです。(商法503条2項)

事例によって、判断が異なることがあるということになります。
第4回の農協の場面では、商人に貸しているというところで、例外場面は限られるという訴訟展開でしたが、第5回の本事例では、商人に貸したのではなく個人に貸したというのがミソかと思います。
個人に貸しているという事情は、商法503条2項の推定をひっくり返すには大きな判断材料になると言えるかと思われます。

※但し、2020年4月より、時効期間は5年に統一して改正されます。