契約解除に基づく原状回復義務が後に履行不能となった場合の時効

時効判例解説2 最判昭和35年11月1日

事例
Aは、昭和23年7月にBにディーゼルエンジンの修理を依頼し、車を引き渡した。
Aは、修理を催促したが、Bは部品が調達できずにそのまま放置。
Aは、昭和24年8月に契約を解除して(Bの時効開始主張ポイント)、ディーゼルエンジンを返せと求めた。
Bは、ちゃんと管理しておらず、時期不明でディーゼルエンジンを喪失。ディーゼルエンジンを返せなくなった。(Aの時効開始主張ポイント)
Aは、昭和30年2月12日にBに損害賠償請求。
Bは時効を主張した。

Aの主張→ディーゼルエンジンが返せなくなったときに履行不能となったので、その時から新たに5年(ディーゼルエンジンがどっかいってしまって、返せなくなったときから5年)
Bの主張→本来債務発生時である契約解除時から5年(ディーゼルエンジンの修理契約を解除されたとき)

裁判所の判断
B勝訴(時効を認めた)
解除による原状回復(本件ではディーゼルエンジンの返還義務)は、その履行不能による損害賠償義務と同一(Bの主張ポイント)。損害賠償義務は、本来の債務の物体が変更したにとどまり、債務の同一性に変わりはない。
時効は、本来の債務の履行を請求しうる時から進行する。
つまり、契約を解除したときに既にディーゼルエンジンを返せという権利の時効はスタート。
その後、ディーゼルエンジンを返せなくなって、ディーゼルエンジン返せが損害賠償請求に形が変わっても、ディーゼルエンジン返せという権利がそもそもの話であって、ディーゼルエンジン返せが請求できるときから時効はカウントする。なので、契約を解除したときディーゼルエンジン返せと請求できる権利が発生したので、それ以降5年の時効期間が満了すれば時効援用が可能になります。
ということで、契約解除(ディーゼルエンジン返せと言えるとき)から5年以上経っているので、Bの時効の主張は有効と裁判所は判断しました。